マーガリンなどに含まれる「トランス脂肪酸」が健康を害すると話題になっています。
トランス脂肪酸の健康問題にいち早く着目したアメリカでは、トランス脂肪酸の含有量が多い「部分水素添加油脂」の使用を2018年6月から規制します。
この動向を受けて、日本でも乳業大手各社が、トランス脂肪酸を低減した商品を続々と展開し始めました。
ここでは、脂質について再考した上で、トランス脂肪酸とはそもそもどのようなものなのか、なぜ避けるべきなのかをまとめます。
またトランス脂肪酸を低減した商品とその特徴も紹介します。
トランス脂肪酸は体に悪いのか
脂肪酸とは
タンパク質、炭水化物と並んで三大栄養素に数えられる脂質は、私たちの体に欠かせない成分です。
エネルギーとして働く他、生体膜の構成成分となって細胞の働きを維持すると言う重要な役割を担っています。
この脂質を構成している成分が、脂肪酸です。
脂肪酸は、「飽和脂肪酸」、「一価不飽和脂肪酸」、「多価不飽和脂肪酸」の3つに大きく分けられます。
飽和脂肪酸は、主に乳製品、肉などの動物性の油に多く含まれ、常温では固形です。
飽和脂肪酸の摂取量が多すぎると生活習慣病のリスクが高まり、肥満、糖尿病をまねくため、摂取量には注意が必要と考えられています。
それに対し不飽和脂肪酸は、主に植物油や魚に多く含まれ、常温で液体です。
体の中で合成できず、食べ物で摂取しなければいけない必須脂肪酸もここに分類されます。
近年、摂取が勧められているオメガ3脂肪酸(フィッシュオイル)も不飽和脂肪酸の一つです。
このように健康効果の観点から飽和脂肪酸と、飽和脂肪酸を比べると、植物由来の不飽和脂肪酸に軍配が上がります。
ただし、植物由来だからと言って、手放しに喜べないタイプの油もあります。
それが、トランス脂肪酸を多く含む加工油脂です。
トランス脂肪酸と加工油脂
トランス脂肪酸には、「天然のもの」と、「油脂を加工・精製する工程でできる人工的なもの」があります。
牛や羊などの反芻(はんすう)動物は、胃の中の微生物の働きによって、トランス脂肪酸を生成します。
そのため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品には、天然のトランス脂肪酸が微量含まれます。
これに対し、油脂の加工・精製過程で作り出されるトランス脂肪酸は、主に植物性の素材を原料にします。
先述した通り、植物性油脂は健康効果に優れています。
ただしこれは、オリーブオイルや亜麻仁油など、天然の脂肪酸で構成されたナチュラルな油の場合です。
近年、トランス脂肪酸の含有が問題視されているマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングは、「水素添加」して作られた加工油脂です。
水素添加
常温で液体である植物油や魚油を原料にして、半固体あるいは固体の油脂を製造する加工技術のこと。
例えばマーガリンは、大豆油やなたね油などの植物油に粉乳や食塩などを加えて人工的に作られています。
その際、バターに似た滑らかさや風味をつけるために、トランス脂肪酸を多く含む「部分水素添加油脂」を加えます。
植物油を原料にしているため、近年まではバターより健康的なイメージで親しまれてきました。
しかし最近では、トランス脂肪酸の健康リスクが注目されるようになり、日本の消費者も水素添加した加工油脂を避ける傾向になってきました。
トランス脂肪酸の潜在的リスク
トランス脂肪酸を摂取することにどのような問題があるのでしょうか?
結論から言うと、トランス脂肪酸は、食品からあえて摂る必要のない脂肪酸です。
摂りすぎた場合、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が増える一方、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が減ることが報告されています。
また、心臓病のリスクを高めると考えられています。
トランス脂肪酸からの摂取カロリーが2%増えると、冠動脈性心疾患のリスクが29%も上昇すると言う報告もあります。
米食品医薬品局(FDA)は、部分水素添加油脂について「安全とは認められない」と結論付け、食品への使用の原則禁止が決定されました。
トランス脂肪酸の健康リスクを示す研究の多くは、欧米人を対象としたものなので、トランス脂肪酸の摂取量が相対的に少ない日本人の場合も同じ影響があるのかどうかは明らかになってはいません。
しかし、加工品の摂取量が増えている近年の日本の食卓を考えると、決して楽観視はできないでしょう。
トランス脂肪酸を含む食品と摂取量の目安
生活習慣病の予防のための専門家会合(WHO/FAO合同専門家会合)は、食品から摂取する総脂質量および飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等の摂取目標値を公表しました。
これによるとトランス脂肪酸の摂取量は、総エネルギー摂取量の1%未満としています。
日本人が一日に摂取するエネルギーの平均は1,900 kcalです。
ここから換算すると、トランス脂肪酸の摂取量は1日約2グラム未満になります。
トランス脂肪酸の摂取量を把握するのは難しいかもしれませんが、加工食品の摂取量が多い人は注意しましょう。
進んでマーガリンなどを食べていなくても、菓子パンや惣菜パン、スナック、スイーツ類には多くの加工油脂が使われています。
トランス脂肪酸を多く含む食品には他にも次のようなものがあります。
- マヨネーズ
- コーヒークリーム
- カップ麺
- インスタント麺
- レトルトカレー
- 冷凍ピザ
- フライドポテト
- フライドチキン e.t.c
トランス脂肪酸の摂取量が気になる場合は、そうした加工品の摂取量を出来るだけ控えるよう心がけましょう。
トランス脂肪酸を低減した食品
トランス脂肪酸を控えるとはいえ、マーガリンなどの加工油脂がなくなると食卓が寂しくなってしまいます。
美味しいだけでなく手頃な価格の加工油脂は、日本の食卓を彩る名脇役として活躍してきたのも事実です。
トランス脂肪酸の摂取を減らしつつ、マーガリンなどを楽しみたいと言う消費者のニーズに応えるため、いま続々と新商品が登場しています。
明治は、2018年3月1日以降発売する「コーンソフト」などの家庭用マーガリン全10種類において、部分水素添加油脂を使わない商品づくりを行っています。
参考までに、明治の商品ラインナップの一部とトランス脂肪酸の含有量を見てみましょう。
商品名 | トランス脂肪酸g/10g |
明治コーンソフト | 0.1 |
明治なめらかソフト | 0.1 |
明治オフスタイル | 0.1 |
明治チーズがこんがりソフト | 0.1 |
明治ケーキマーガリン | 0.1 |
明治素材紀行EXバージンオリーブソフト | 0.1 |
内閣府の食品安全委員会が、平成18年に調査したデータによると、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の平均量は以下の通りでした。
- 市販品5.5 g/100g
- 業務用8.2g/100g
これに比べると、最近の商品がトランス脂肪酸を低減していることがよくわかります。
明治 スプレッタブル バターの新しいおいしさ
また、同じく明治の「スプレッタブル バターの新しいおいしさ」は、バターをスプレッドとして気軽に使いやすく作った商品です。
バターは飽和脂肪酸を多く含みますが、水素添加した植物性油脂を避ける流れの中で、見直されています。
バターをメインにクリームチーズ、なたね油、塩の4つの素材だけでつくられたスプレッドです。「バターのコクのあるおいしさ」と「やわらかさ・使いやすさ」が特徴です。パンにぬるだけではなく、様々な料理への使用にも適しています。
[rakuten id=”misono-support:10121129″ kw=”明治 スプレッタブル”]
雪印メグミルク マーガリン
雪印メグミルクは「ネオソフト」をはじめ家庭用マーガリン全12品に部分水素添加油脂の使用しない処方を実現しています。
[amazon asin=”B073ZD3NTP” kw=”雪印 マーガリン ネオソフト 300g”]
小岩井乳業 マーガリン
小岩井乳業も「小岩井 マーガリン」も、水素添加ではない製法を採用しています。
[rakuten no=”4972050007147″ kw=”小岩井 マーガリン ヘルシータイプ 180g”]
このように乳業各社は、トランス脂肪酸を生成しない製法の商品を多数展開しています。
外食産業のトランス脂肪酸への対応
トランス脂肪酸は油の高温調理でも生成されてしまいます。
日本KFCホールディングスや日本マクドナルドなどの外食各社は、そうした弊害をなくすため、トランス脂肪酸が生じにくい油に替えるなどの取り組みを行っています。
トランス脂肪酸まとめ
かつては、健康のために脂質の摂取を控えると言う考え方が主流でした。
しかし近年では、脂質の重要性が再認識されています。
ただし、脂質であればなんでも良いと言うわけではありません。
体にストレスを与えない脂質、有用な脂質を選ぶことが大切です。
こうした時代の趨勢の中、トランス脂肪酸が持つ健康リスクを避けながら、美味しく手頃な価格で購入できる商品が増えています。
こうした商品の数々は、体にストレスを与えず、バランスの良い食事を実現するための新しい選択肢になることでしょう。