ビールの原材料欄を見て「コーン、スターチ」の文字に引っかかり、なんとなく体に悪そうと感じながらも、結局よく分からないまま飲んでいる——そんな経験はないだろうか。
ネットで調べても「コーンスターチは血糖値を上げる」「添加物だから危険」といった情報が出てくる一方で、「問題ない」という声もあり、何が本当なのか判断がつかないのが実情だ。
この記事では、ビール醸造の化学プロセスと最新の研究データをもとに、コーンスターチの役割・味への影響・体への安全性を徹底的に整理した。
読み終わる頃には、自分の体質や好みに合ったビールを根拠を持って選べるようになる。
結論を先に言えば、コーンスターチは醸造過程で分解されるため最終製品にはほぼ残らない。ただし、見落とされがちな「亜硫酸塩」という別のリスクが存在する。喘息体質の人は特に知っておくべき内容だ。
ビールの「コーン」と「スターチ」は別の原料

ビールの原材料欄を見ると「麦芽、ホップ、米、コーン、スターチ」のように書かれていることが多い。ここで「コーンスターチ」という1つの原料だと思いがちだが、実は「コーン」と「スターチ」は別々の原料として使用されている。

コーンはとうもろこしの粉砕物(コーングリッツ)
「コーン」と表記されているのは、コーングリッツと呼ばれるとうもろこしを粗く挽いたものだ。とうもろこしの胚乳部分を粉砕しており、醸造過程で麦芽の酵素によって糖化され、アルコール発酵の原料になる。
スターチはでんぷん(主にコーンスターチ)
「スターチ」はでんぷんのことで、主にとうもろこしから抽出したコーンスターチが使われる。片栗粉のような白い粉末で、こちらも醸造過程で糖化されてアルコールの原料となる。
「コーンスターチ」と「コーン・スターチ」表記の違い

原材料欄の表記には2つのパターンがある。
| 表記 | 意味 |
|---|---|
| コーンスターチ | とうもろこし由来のでんぷん(1つの原料) |
| コーン、スターチ | コーングリッツとでんぷん(2つの別原料) |
多くの日本のビールでは「コーン、スターチ」と読点で区切られており、これは2種類の原料を使っていることを示している。
ビールにコーンスターチを入れる理由と役割

なぜビールメーカーは、麦芽だけでなくコーンやスターチを使うのか。その理由は味の調整、醸造の安定化、コスト面の3つに分けられる。
副原料とは何か:酒税法上の位置づけ
酒税法では、ビールの原料として麦芽・ホップ・水のほか、一定の副原料の使用が認められている。副原料として使用できるのは、麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でんぷん、糖類などだ。
2018年の酒税法改正により、麦芽比率50%以上かつ副原料が麦芽重量の5%以内であれば「ビール」と表示できるようになった。それまでは67%以上が必要だったため、副原料の使用範囲が広がった形になる。
味をすっきりさせる仕組み:麦芽のコクを調整する
副原料を使う最大の目的は味の調整だ。麦芽100%で醸造すると、麦芽由来のタンパク質やアミノ酸が多く残り、濃醇でコクのある味わいになる。
コーンやスターチは成分のほとんどがでんぷんで、タンパク質をほとんど含まない。そのため、副原料として加えることですっきりとした軽快な飲み口に調整できる。日本の大手ビールメーカーが「キレ」や「爽快感」を打ち出す製品を作れるのは、この副原料の活用によるところが大きい。
発酵度・泡立ちのコントロール
コーンスターチを使うと、麦芽だけの場合よりも発酵度を高くできる。でんぷんが酵素で分解されると発酵しやすい糖になるため、よりドライな仕上がりになる。
また、タンパク質が少ないことで泡立ちや泡持ちの調整もしやすくなる。麦芽100%ビールは泡がクリーミーになりやすい一方、副原料入りビールはシャープな泡立ちになる傾向がある。
コスト面のメリット:安定した原料調達
麦芽は大麦を発芽させて作るため、収穫量や品質が気候に左右されやすい。一方、コーンやスターチは大量生産が可能で価格が安定している。
年間数億本単位で製造する大手メーカーにとって、原料の安定調達とコスト管理は重要な経営課題だ。副原料の活用は、品質を維持しながら安定供給を実現する手段の1つになっている。
コーンスターチでビールの味はどう変わるのか

副原料の有無は、ビールの味わいに明確な違いをもたらす。どちらが「良い・悪い」ではなく、目指す味の方向性が異なるということを理解しておきたい。
副原料ありのビール:軽快でキレのある飲み口
コーンやスターチを使ったビールは、以下のような特徴を持つ。
- 🍺 軽快な飲み口:雑味が少なく、ゴクゴク飲める
- 🍺 シャープなキレ:後味がすっきりしている
- 🍺 爽快感:暑い日や食事中に飲みやすい
アサヒ スーパードライ、キリン ラガーなどがこのタイプの代表例だ。
麦芽100%ビール:コクが深く麦の風味が強い
副原料を使わない麦芽100%ビールは、麦芽本来の風味を前面に出した味わいになる。
- 🍺 豊かなコク:飲みごたえがある
- 🍺 麦の香り:モルトの香ばしさや甘みを感じる
- 🍺 複雑な味わい:余韻が長い
エビスビール、ザ・プレミアム・モルツ、一番搾りなどがこのタイプに該当する。
「まずい」と感じるのはコーンスターチのせいか
「副原料入りビールはまずい」という声を聞くことがあるが、これは好みの問題であることが多い。副原料入りビールは「すっきり系」の味を目指して設計されているため、濃厚な味わいを求める人には物足りなく感じる可能性がある。
逆に、麦芽100%ビールを「重い」「苦い」と感じる人もいる。どちらが美味しいかは個人の味覚や飲むシチュエーションによって変わるため、一概に優劣をつけることはできない。
コーンスターチは体に悪いのか:ビール醸造の化学から考える
「コーンスターチは体に悪い」という情報を見かけることがある。結論から言えば、ビールに含まれるコーンスターチ由来の成分が直接的に健康を害するリスクは低い。ただし、見落とされがちな注意点もある。
でんぷんとしてのリスク:醸造中に糖化・発酵で分解されるため最終製品にほぼ残らない

コーンスターチはでんぷん(炭水化物)であり、そのまま大量に摂取すれば血糖値の急上昇などの影響がある。しかし、ビール醸造においては事情が異なる。
ビール醸造のプロセスは以下の通り。
- 💧 糖化:麦芽の酵素がでんぷんを糖(麦芽糖・ブドウ糖)に分解
- 💧 発酵:酵母が糖をアルコールと炭酸ガスに変換
- 💧 完成:でんぷんはほぼ残らず、アルコールに変わっている
つまり、コーンスターチは最終製品のビールにはでんぷんとしてほとんど残っていない。残っているのは、でんぷんが変化したアルコールだ。
見落とされがちなリスク:製造工程由来の亜硫酸塩の残留
コーンスターチそのものよりも注意すべきなのが、製造工程に由来する亜硫酸塩(SO₂)の残留だ。
コーンスターチは「ウェットミリング」と呼ばれる工程で製造される。この過程では、とうもろこしを0.1〜0.2%(1,000〜2,000ppm)の亜硫酸溶液に浸漬して軟化させる。最終製品のコーンスターチには、この亜硫酸塩が微量(数十ppm程度)残留している可能性がある。
亜硫酸塩は食品添加物として認可されており、ワインやドライフルーツにも保存料として使われている。一般的な量であれば健康な人への影響はほとんどない。
亜硫酸塩過敏症とビール:喘息体質の人が注意すべき理由
問題となるのは亜硫酸塩過敏症を持つ人の場合だ。特にステロイド依存性の重症喘息患者は、微量の亜硫酸塩でも症状が誘発される可能性がある。
亜硫酸塩過敏症の症状:
- 喘息発作の悪化
- 頭痛
- じんましん
- 消化器症状
喘息を持つ人で、ワインを飲むと症状が出やすいという自覚がある場合は、副原料入りビールでも同様の反応が起きる可能性がある。
ビールで体に最も影響を与えるのはアルコールそのもの

ビールが体に与える影響を考えるとき、コーンスターチよりも圧倒的に影響が大きいのはアルコールだ。
アルコールの健康リスク:
- 肝臓への負担
- 依存性
- 睡眠の質の低下
- 脱水症状
- 長期的な発がんリスクの上昇
厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」として1日あたり純アルコール20g程度(ビール中瓶1本相当)を目安としている。コーンスターチの影響を気にする前に、まずは飲酒量自体を適正に保つことが健康管理の基本になる。
「ビールのコーンスターチで頭痛がする」は本当か

「副原料入りビールを飲むと頭痛がする」という声がある。この原因として考えられるのは、アルコール代謝と亜硫酸塩の2つだ。
アルコール代謝(アセトアルデヒド)による頭痛のメカニズム
ビールを飲んで頭痛が起きる最も一般的な原因は、アセトアルデヒドだ。アルコールは肝臓で以下のように代謝される。
アルコール → アセトアルデヒド(有害)→ 酢酸(無害)→ 水・二酸化炭素
アセトアルデヒドは有害物質で、頭痛・吐き気・動悸などの「二日酔い症状」を引き起こす。日本人の約40%はアセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)の働きが弱く、少量の飲酒でも頭痛が起きやすい。
この場合、コーンスターチの有無は関係なく、アルコールを含むすべての酒類で同様の症状が起きる。
亜硫酸塩過敏症による頭痛の可能性:ワインと同じ構造

もう1つの可能性が、前述の亜硫酸塩過敏症だ。ワインを飲むと頭痛がするという人の一部は、ワインに含まれる亜硫酸塩(酸化防止剤)に反応している可能性がある。
副原料入りビールにも、コーンスターチ由来の亜硫酸塩が微量含まれている可能性があるため、同様のメカニズムで頭痛が誘発される可能性は否定できない。
原因の切り分け方:麦芽100%ビールとの比較で判断できる
自分の頭痛がコーンスターチ(亜硫酸塩)に関係しているかどうかは、以下の方法で確認できる。
| 飲んだもの | 頭痛の有無 | 考えられる原因 |
|---|---|---|
| 副原料入りビール | あり | アルコール or 亜硫酸塩 |
| 麦芽100%ビール | あり | アルコール代謝の問題 |
| 麦芽100%ビール | なし | 亜硫酸塩過敏症の可能性 |
麦芽100%ビールでは頭痛が起きず、副原料入りビールでのみ頭痛が起きるなら、亜硫酸塩過敏症の可能性が考えられる。この場合、麦芽100%ビールに切り替えることで症状を避けられる可能性がある。
ビールのコーンスターチと遺伝子組み換え問題

ビールのコーンスターチに関して、遺伝子組み換え(GMO)を気にする声もある。現状を整理する。
大手4社のビール用コーン・スターチは非GM原料を使用
日本の大手ビールメーカー(アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー)は、ビール製品に使用するコーン・スターチには非遺伝子組み換え原料を使用している。
これは各社の公式情報や問い合わせ回答で確認されており、「ビール」カテゴリの製品については消費者が遺伝子組み換えを心配する必要は現時点ではない。
グリホサート残留のリスク:ウェットミリング工程で大部分が除去される
GMOとうもろこしの栽培には、除草剤グリホサートが使われることが多い。グリホサートの残留を懸念する声もあるが、コーンスターチの製造過程(ウェットミリング)では、複数回の水洗・分離・精製工程を経るため、農薬の大部分は除去される。
日本国内で流通するコーンスターチは、食品衛生法の残留農薬基準を満たしたものだけが使用される。
発泡酒・第三のビールの糖類は「不分別」の場合がある
注意が必要なのは発泡酒や第三のビール(新ジャンル)だ。これらの製品に使われるコーン由来の糖類(液糖など)は、2015年頃から「遺伝子組み換え不分別」に切り替えたメーカーが多い。
「不分別」とは、遺伝子組み換え原料と非遺伝子組み換え原料を区別せずに使用するという意味だ。GMOを完全に避けたい場合は、原材料表示や各社の問い合わせ窓口で確認する必要がある。
コーンスターチが入っていないビール銘柄一覧【麦芽100%】

コーンスターチを避けたい人のために、麦芽100%(副原料なし)のビールを紹介する。
大手メーカーの麦芽100%ビール

| メーカー | 銘柄 | 特徴 |
|---|---|---|
| サッポロ | エビスビール | 長期熟成による深いコクと苦味 |
| サッポロ | サッポロクラシック | 北海道限定、副原料不使用 |
| サッポロ | SORACHI 1984 | 伝説のホップ使用、香り高い |
| サントリー | ザ・プレミアム・モルツ | 華やかな香りと深いコク |
| キリン | 一番搾り生ビール | 一番搾り麦汁のみ使用 |
| キリン | 晴れ風 | すっきりした麦芽100% |
| キリン | ハートランドビール | シンプルな味わい |
コーンスターチを使用している主なビール
参考までに、副原料(コーン、スターチ、米など)を使用しているビールも紹介する。
これらは「副原料入り=悪い」ではなく、すっきりした味わいを目指して設計された製品だ。
海外ビール・クラフトビールの選び方

海外ビールやクラフトビールの多くは、原材料表示を確認すれば副原料の有無がわかる。
麦芽100%ビールの見分け方:
- ✅ 原材料が「麦芽、ホップ」のみ
- ✅ 「麦芽100%」「オールモルト」の表記あり
- ✅ ドイツ産ビール(純粋令に準拠)
副原料入りビールの見分け方:
- 📝 原材料に「コーン」「スターチ」「米」「糖類」などがある
- 📝 アメリカンラガー、アジアンラガーに多い
ドイツの「ビール純粋令」と副原料の考え方
ドイツには1516年に制定された**「ビール純粋令(Reinheitsgebot)」**がある。これは「ビールは麦芽・ホップ・水・酵母のみで作るべし」という法律で、世界最古の食品衛生法ともいわれる。
現在のドイツでは純粋令は緩和されているが、多くのドイツビールは伝統的に麦芽100%で醸造されている。副原料を避けたい場合、ドイツ産ビールは選択肢の1つになる。
日本と海外のビール副原料事情の違い
ビールの副原料使用は、国や地域によって事情が大きく異なる。
アメリカ:米・コーンを広く使用
アメリカの大手ビールメーカー(バドワイザー、ミラー、クアーズなど)は、米やコーンを副原料として広く使用している。これは、軽くて飲みやすいラガービールを大量生産するためだ。
アメリカンラガーは「薄い」「水っぽい」と批判されることもあるが、暑い気候で喉を潤す目的には適している。近年はクラフトビールブームにより、麦芽100%のIPAやペールエールも人気を集めている。
ドイツ:純粋令の歴史と現在の運用
前述の通り、ドイツでは純粋令の伝統があり、麦芽100%ビールが主流だ。ただし、現在は小麦麦芽やスパイスを使ったビール(ヴァイツェン、グリュイットなど)も「ビール」として認められている。
純粋令は「ビールの品質を守る」という側面と「他の穀物を食用に回す」という食糧政策の側面があったとされる。
副原料=悪ではない:醸造の多様性という視点
副原料の使用を「ビールの純粋さを損なう」と批判する見方がある一方で、**「醸造の多様性を広げる」**という視点もある。
ベルギービールでは、オレンジピールやコリアンダーを使ったヴィットビールや、フルーツを加えたランビックが伝統的に作られてきた。日本でも2018年の酒税法改正により、果実やハーブを使った個性的なビールが「ビール」として販売できるようになった。
大切なのは、副原料の有無ではなく、自分の好みに合った味わいを選ぶことだ。
よくある質問
- ビールにコーンスターチを入れる理由は?
-
主な理由は味の調整だ。コーンスターチを加えることで、麦芽のコクを和らげ、すっきりとキレのある飲み口に仕上げられる。発酵のコントロールやコスト面のメリットもある。
- コーンスターチ入りのビールは体に悪い?
-
コーンスターチは醸造過程で糖化・発酵され、最終製品にはでんぷんとしてほぼ残らない。一般的には健康上の問題はない。ただし、喘息や亜硫酸塩過敏症のある人は、製造工程由来の亜硫酸塩に反応する可能性がある。
- コーンスターチが入っていないビールはどれ?
-
麦芽100%ビールを選べばよい。エビスビール、ザ・プレミアム・モルツ、一番搾りなどが代表例。原材料欄に「麦芽、ホップ」のみ記載されていれば副原料不使用だ。
- ビールの「コーン」と「スターチ」は同じもの?
-
別の原料だ。「コーン」はとうもろこしの粉砕物(コーングリッツ)、「スターチ」はでんぷん(主にコーンスターチ)を指す。読点で区切られている場合は2種類の原料を使っている。
- コーンスターチで頭痛がするって本当?
-
可能性はある。副原料入りビールには、コーンスターチ製造工程由来の亜硫酸塩が微量含まれる場合があり、亜硫酸塩過敏症の人は頭痛が起きることがある。麦芽100%ビールでは頭痛がなく、副原料入りでのみ起きるなら、この可能性が考えられる。
まとめ

コーンスターチはビールの味をすっきりさせるための副原料であり、醸造過程で糖化・発酵を経て分解されるため、でんぷんとしては最終製品にほぼ残らない。
ただし、コーンスターチの製造工程に由来する亜硫酸塩が微量残留する可能性があり、喘息や亜硫酸塩過敏症の体質を持つ人にとっては注意が必要な要素になる。遺伝子組み換えやグリホサートについては、精製工程で大部分が除去されるため、現時点で直接的な健康リスクは限定的と評価されている。
味の好みや体質に応じて、麦芽100%ビールと副原料使用ビールを選び分けるのが合理的な判断になる。
【参考情報】

